石垣、じわり脚光 城主の理念や権力構造「情報」満載

asahi.com(朝日新聞社):2010年5月10日10時53分

写真:昨年10月、富山城で行われた「富山城石垣ツアー」。100人近くが参加した

昨年10月、富山城で行われた「富山城石垣ツアー」。100人近くが参加した

写真:JR福山駅前で発掘された福山城の石垣跡。現在は埋め戻されて平地になっている=広島県福山市、「福山駅前水辺公園プロジェクト」提供

JR福山駅前で発掘された福山城の石垣跡。現在は埋め戻されて平地になっている=広島県福山市、「福山駅前水辺公園プロジェクト」提供

 お城の基礎ともいえる石垣が注目されている。石垣見学ツアーが人気で、学術調査や研究も進み、保護や保全の活動が広がっている。高い築造技術のみならず、城づくりを通じた城主の理念や権力構造まで、石垣がもたらす豊かな情報に光が当たりつつある。

 富山市の中央部にある富山城。昨年度から始まった同城の「富山城石垣ツアー」は、計8回で、約600人が参加する人気だった。

 きっかけは2002〜08年度に同城の石垣調査が行われたこと。刻印や鏡石など、城の石垣の見どころを市埋蔵文化財センター職員が毎回、一部内容を変えつつ解説する。「リピーターの方も多いようです」と担当者。今月5日に今年度の1回目が開かれた。年度内に計8回の実施を予定しているという。

■「伊達家を反映」仙台城跡

 石垣の研究は近年盛んになっている。「青葉城」の名で知られる仙台城跡(仙台市)には、石垣の歴史と発掘成果を展示する仙台城見聞館が立つ。1998年に現存の17世紀後半の石垣の下から、古い石垣が2種類出土した。初代藩主・伊達政宗による17世紀初頭の築城期と、その十数年後に造られたものだった。

 仙台市博物館の金森安孝副館長は、「各石垣が当時の伊達家の状況を反映するように思える」と話す。築城は関ケ原の戦いの直後で、東北が不安定な頃。最初の石垣は地形を生かし、緩い斜面に石積みを張り付けるように造られた。2期目はずっと高く急角度に。「政宗が他の大名らに財力や技術力を誇示したのでは」と金森さん。

 現存の3期目は、整然と積まれ、土留めの技術も進歩した。「『普請』と呼ばれた土木構造は城づくりの要。技術は城下の町づくりにも応用されるなど、藩主の“都市理念”にかかわるものだった」

 そうした城の石垣はいつ、なぜ誕生したのか。

城郭史に詳しい中井均・長浜城歴史博物館長(滋賀県長浜市)によると、近世城郭の成立要素は高石垣と瓦と天守。三つとも初めて備えたのが織田信長の安土城だという。石垣そのものは、山岳寺社の造営技術を基礎に「16世紀初めから中頃に生まれた」とみている。

 城に石垣が築かれた背景には戦国大名の登場がある。城は戦いのための臨時的な場から、恒久的な施設へと変わった。「建物も巨大になり、土塁では支えきれず石垣になった」と中井さん。石垣は土手際まで築け、防御の死角がなくなる利点もあった。

■広がる保全 開発巡り訴訟も

 一方で、保護や修復が必要な石垣も増えている。

 世界遺産の姫路城(兵庫県姫路市)は、石垣の「カルテ」を作った。姫路市は03年から5年かけて、石垣を1面ずつ写真やレーザー計測で記録。大きさや傾斜、石の加工法や積み方などのデータをとり、変形や風化の度合いも調べた。同市文化財課の大谷輝彦係長は「今回のデータを元に、保存技術を後世に伝えたい」と話す。

 文化庁は09年、文化財石垣保存技術を国の選定保存技術に選んだ。姫路市の日本城郭研究センターが事務局となり、技術を伝える講習会を開いている。

 保全か開発かで論議が続く石垣もある。福山城(広島県福山市)だ。新幹線の福山駅前で08年、同市の調査によって舟入遺構(船着き場跡)の石垣が確認された。藩主が瀬戸内海から直接、城に入れるよう水を引いて造った施設で、現存するのは全国でも珍しい。

 市はそれらを壊して車の送迎場の整備を計画。それに対して、市民団体「福山駅前水辺公園プロジェクト」が10万人を超える署名を集めて見直しを迫り、遺構を生かした親水公園にする案を出した。文化庁と日本考古学協会も、石垣を保存すべきだとの意見を表明した。

 市はその後、計画を一部変更し、「保全のあり方は後世に託したい」と舟入遺構を埋め戻した。ただ一部の石垣は壊す。市民団体は「送迎場があっては遺構の将来の活用が見込めない」と納得していない。昨年秋には開発をめぐって住民訴訟を起こし、広島地裁で審理中だ。

 天守閣ほど派手ではないが、石垣は城を支える“縁の下の力持ち”。学術研究の進展とあいまって、今後「歴史の証人」の保存・活用がますます重要になるだろう。(小川雪、宮代栄一)

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201005100119.html